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ぴぃぷ 其の四

たいらなぎ  

「……よう。」
「……おう。」
「なんか……用あるんか? 」
「んー……いや、特には。」
「ほ〜ん。」
四月の最初の日曜日。

家中の戸を開け放つと、素肌に気色いい風が吹き抜けていく、穏やかな昼下がり。

ゆざさは、時折ふいに訪れる寒気に備えて出しっぱなしの炬燵に、深く身を沈めて、ラジオをつけたまま惰眠を貪っていた。

ふいに、妙な気配を肌で感じて、重い瞼を押し上げた。

と、そこには丁度全ての配置が逆向きになった、見飽きたカズヒトの顔があった。

眼前わずか10センチ。
「カズヒト。」
「ん?」
「どいて。」
「このままチューする? 」
「顎に頭突きかますよ? 」
笑顔のカズヒトに、笑顔で答えるゆざさの目は、ちっとも笑っていなくて、カズヒトは目尻を下げたまま上半身を起こす。

ゆざさも、炬燵から自分の体を引っ張り出して、上体を起こすと、手を伸ばしてラジオの電源をオフにする。

「なしたの? カズヒト。」
「だから、なんもせんて。」
「なんもせんのに、女の家に一升瓶持ってくんの? 」
「……は? あ、……あぁ、これ。」
「それ。」
カズヒトの左手に握られた、薄もやがかった白透の一升瓶。

鼻をひくつかせて、瓶を凝視するウワバミゆざさ。
「これ飲みながら花見せんか。」
「どこで?」
「どっかの公園で。」
「公園? 二人で一升瓶抱えて? 」
「コンビニでつまみ調達して。」
「……阿呆カズ。」
「……はい? 」
唐突にぽつりと投げられた言葉に、文字通りぽかんとして、言葉の出ないカズヒト。

それを無視して、立ち上がると、ベランダに面した一番大きな窓のカーテンを開け放つゆざさ。
「おい、カズヒト。」
「……ん?……え……。」
ゆざさに促され、窓辺に視線を投げかけ、刹那、息を呑む。

視界を満たすのは、爛漫の薄紅緋。

瞬間的に寒気がするほどの、その、艶(あで)やかな光景に、しばし陶然と見惚れる。

「これくらいで足りるかな? 阿呆カズ君。」
「……余るって。」
二人でベランダに出て、そのまま腰を下ろす。

満開の風景を肴に、酒器を傾ける。
「ゆざさ……。」
「ん……? 」
「……らーめんどんぶりで呑むなや。」
(終)


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